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投資協業事例
日本超電導応用開発株式会社
SOLIZEグループは、医療、エネルギー、モビリティや輸送分野への応用が期待される極細超電導線材について、独自の加工技術の研究・開発を行う日本超電導応用開発株式会社(Japan Superconductivity Application Development Inc.、以下JSA)に出資を行っています。JSA代表取締役 CEOの大坪 正人氏と、SOLIZE Holdings株式会社 代表取締役社長CEOの宮藤 康聡が、出資に至る経緯から出資にとどまらない両社の取り組み、そして今後のさらなる展開について対談しました。

日本超電導応用開発株式会社(JSA)
代表取締役 CEO
大坪 正人
父親が経営する株式会社由紀精密に常務として入社し、2013年に代表取締役社長に就任。研究開発型町工場として航空宇宙業界へ進出し、JIS Q 9100の取得や経済産業省IT経営力大賞の受賞など、高付加価値なものづくりに特化した経営戦略に力を入れる。2017年に中小製造業へのイノベーション投資による技術承継を目指し、グループ持株会社の由紀ホールディングス株式会社を設立。2020年に一般社団法人ファクトリーサイエンティスト協会の代表理事に就任。2023年にJSAを設立。

SOLIZE Holdings株式会社
代表取締役社長CEO
宮藤 康聡
本田技研工業株式会社、株式会社ファーストリテイリングを経て、2005年にSOLIZEグループの前身である株式会社インクス(現当社)に入社。一貫して人事領域でキャリアを積む。2017年にグループ会社であるSOLIZE Engineering株式会社 代表取締役社長、2019年にSOLIZE株式会社(現当社) 常務取締役、2020年に代表取締役社長CEOに就任。
Q.JSAの設立経緯について教えてください。
大坪私は、いわゆる町工場の3代目です。祖父が創業し、父が経営していた由紀精密という会社を継ぎました。もともと由紀精密は精密切削加工を得意としていましたが、家業に戻ってからは将来を見据え、航空宇宙関連業界に進出するなど、研究開発型町工場を目指しました。そのチャレンジのなかで感じたのは、零細・中小企業としての限界です。そこで2017年に、数社をM&Aしてホールディングス化しました。グループ企業が12社となったことで、おもしろい要素技術が集まるようになり、そのなかに銅線を細くする技術がありました。本来は電線を量産するための技術ですが、この会社は銅線を10μmまで細くすることができました。これは髪の毛の約1/8の太さで、世界でもできる企業はほんの数社しかありません。
もう1つ、由紀精密には、過去に超電導の研究をしていたエンジニアがいました。現在は由紀精密の社長を務めています。彼は学生時代に超電導物質を発見しており、それは今でも金属間化合物のなかでは最高温度で超電導になる物質です。これらの技術を組み合わせて、細い超電導線を作ることができれば、画期的なことができるのではないか、というのが事業のスタートでした。
すべての物質に電気抵抗があり、電気を流すと発熱してロスが生じます。しかし、極限まで低い温度にすることで、物質によっては電気抵抗がゼロになります。これが超電導という現象です。超電導線で送電線を構成すれば、エネルギーが失われない、つまり発熱しないため大きな電流を流すことができます。一般的に使われる銅線に対して、同じ太さの超電導線は何十倍、何百倍もの電気を流すことができます。これを応用すれば、小さくても強力な電磁石を作ることが可能です。
極細超電導線材分野のフロントランナーであり、現在当社の技術顧問でもある、国立研究開発法人 物質・材料研究機構の菊池 章弘博士からも、「超電導線を細くすれば、これまでの超電導の弱みや難しさが解決でき、さまざまな産業に大きなインパクトを与えられる」と後押しをいただきました。これを受け、2018年に物質・材料研究機構などと共同で、世界でもっとも細くてしなやかな超電導線の開発に着手しました。
これが学会などで注目を集め、引き合いも増えてきたことから、2023年に事業をカーブアウトするかたちで、JSAを設立しました。
Q.会社設立時にはどのような資本政策を検討していましたか。

大坪初期のころはグループ内の予算の範囲で進めていましたが、このような研究開発には時間がかかります。グループの利益をすべて超電導の研究に充てるわけにもいかない一方で、スピード感を持って開発を進めたいという思いもあり、外部からの出資を受ける方針へと転換しました。そこで、2024年にSOLIZE株式会社(当時)ともう1社の事業会社を引受先とするJ-KISS型新株予約権を発行するかたちで、資金調達を実施しました。その後、ベンチャーキャピタルからの出資も受けています。
Q.SOLIZEグループが引受先の候補として挙がった理由をお聞かせください。
大坪超電導線をコイルやモーターにする際には、SOLIZEの技術との親和性が非常に高かったのです。1つはシミュレーション技術です。線を巻いてコイルにする際にはさまざまな現象が起きるため、設計の段階で事前にシミュレーションを行う必要がありました。また、コイルにするにはどのような巻き枠に巻いていくかも重要であり、複雑な巻き枠を造形するには3Dプリンティングの技術が必要です。実際、あるエネルギー分野で非常に複雑な部品が求められており、これをJSAとSOLIZEで共同開発できないかと考え相談したことが、出資のお願いをすることになったそもそものきっかけです。
スタートアップでは、シーズの段階からベンチャーキャピタルによる出資が入るケースも多いと思います。しかし将来、株主となっていただく企業とは、お互いに成長を目指せる関係を築きたいと考えていました。超電導分野の研究には膨大な投資が必要ですし、結果が出るまでにはそれなりの時間がかかります。それをご理解いただけたのは非常にありがたかったです。
Q.一方で、SOLIZEグループとして出資を決めた経緯をお聞かせください。
宮藤SOLIZEグループの前身である株式会社インクスでは、試作金型ビジネスを展開していましたが、金型の中小企業を支えることを目的に、野村證券グループと「雷鳥ファンド」を設立・運営していました。中小企業が素晴らしい技術を持っていたとしても、金融機関は一定期間内に投資を回収する必要があり、長期にわたる開発型ビジネスにはチャレンジしづらいという課題があります。日本の製造業が今なお抱える大きな課題に取り組むためには、テクノロジーとファイナンスの両方が必要だと考え、CVC投資を推進してきました。
極細の超電導線がもたらすさまざまな可能性や将来性を評価したことはもちろんですが、先ほど大坪さんが述べた技術的な親和性もあり、将来性のある分野にSOLIZEグループが参入できるチャンスだと判断しました。
SOLIZEグループのCVC投資としては大きな金額でしたが、将来的に投資対効果が期待できるという判断もありました。
超電導の可能性
Q.超電導の可能性について、もう少し詳しく教えてください。
大坪私たちは、世界でもっとも細くてしなやかな超電導線を作れるようになりました。ただし、この超電導線を扱えるのは国立の研究所や大学など、まだごく少数です。現在は、そのような研究機関を中心に超電導線を提供していますが、数兆円規模の大きなマーケットを目指すためには、これを誰もが使える形にしなければならないと考えています。そこで現在取り組んでいるのが、超電導線をコイルやモーターにすることです。これが実現すれば、超電導線だけではなく、超電導磁石という、より扱いやすいかたちで提供できるため、さまざまな業界や企業で使用される可能性が広がります。
現在、超電導技術がもっとも注目されているのは、核融合発電への活用です。高市 早苗首相が経済安全保障担当大臣時代に策定した「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」では、長年「夢のエネルギー」とも言われてきた核融合発電の技術開発を加速し、2030年代の発電実証が目標として掲げられており、政府の成長戦略の柱の1つとなっています。核融合炉に超電導技術が実装されれば、大きな前進となるはずです。
それ以外にも、MRIやリニアモーターカー、粒子加速器などで超電導技術が活用されているほか、量子コンピュータ用ケーブルへの応用も検討されています。

宮藤人間の究極の欲求というのは、健康で長生きすること、不老不死のような願望に帰結すると思います。そのためには、いかにエネルギーを確保するかということと、生命の仕組みをどれだけ解析できるかということが最大の課題になります。こうした世の中の方向性と照らし合わせても、超電導のニーズは間違いなく広がっていくと期待しています。
Q.出資という関係性だけではなく、さまざまなかたちで両社の連携が進んでいます。
大坪2025年7月に、神奈川県の「『2050年脱炭素社会の実現』」に資する研究開発プロジェクト」に、JSAとSOLIZEが共同で取り組む「しなやかな超電導線を用いた高効率電磁機器の開発プロジェクト」が採択されました。冷却器を用いて超電導コイルを約マイナス250度まで冷やすのですが、このときコイルがどのように冷却されるのか、外気温がどう変化するのかなど、熱解析とシミュレーションをSOLIZE PARTNERS株式会社にお願いしています。
また、2025年8月にはNEDO「ディープテック・スタートアップ支援事業」に、「高可とう性・低交流損失の金属間化合物超電導極細線製造技術開発」事業が採択されました。こちらは、超電導線をねじったり折ったりすると何が起こるかを、SOLIZE PARTNERSにシミュレーションしてもらっています。
JSAは、CTOの中山がもともと日立の超電導部門で開発部長を務めていたこともあり、基本的な原理や設計方法に関しては熟知しています。しかし、厳密に各部の寸法を設定する際には高度なシミュレーションが不可欠です。そのため、実績のある企業とのコラボレーションは必須と考えました。超電導の研究では、非常に多くの可能性を検証する必要があるため、数値で分析し、デジタルで予測しておくことが重要となってきます。しかし、それだけでは完結せず、これだというものを試作するとシミュレーションとのズレが生じることがあります。そこで、そのズレを考慮しながら再度シミュレーション・試作を繰り返すことで、ノウハウが蓄積され、他社が追随しにくい領域に到達することができます。核融合炉の分野まで進むと、極めて高度な解析が必要となるため、その領域まで一緒に踏み込んでいけるよう、SOLIZEグループと共に成長していきたいです。
宮藤エンジニアリング会社は、短期スパンでオペレーショナルな業務に従事することが求められるため、長期スパンの研究的な取り組みを行う機会はどうしても少なくなってしまいます。JSAとのこうした取り組みは、エンジニアのモチベーション向上になっていると思いますし、この経験がエンジニア自身はもちろん、会社の成長にもつながると期待しています。
そういう意味でも、JSAとの関係は単なる出資者というものではなく、未来に向かって共に価値を生み出していく新しい関係性だと考えています。
テクノロジーとファイナンスで日本の産業を変えていく
Q.現在、SOLIZEグループはスタートアップ投資を積極的に行っていく方針を打ち出しています。
宮藤私の父は中小企業の社長で、現在は兄がその会社を継いでいますが、やはり資金繰りの難しさを感じています。金融機関はどうしても短期的な目線で事業を見るため、特に製造業の中小企業では設備投資がボトルネックになることが多い。これは日本のファイナンスにおける大きな課題だと感じています。中小企業が持続的に成長していくには、既存のシステムでは限界があり、長期的なファイナンスの仕組みを事業会社が持つこと、そして企業間が連携することが今後不可欠です。JSAへの出資は、SOLIZEグループがビジョンとして掲げる「システムとしての企業体」の一例になればと考えています。
Q.今後、どのような分野への投資を視野に入れていますか。
宮藤これまで日本のものづくりをけん引してきた自動車産業も、今や踊り場に差し掛かっています。これまで自動車産業に軸足を置いてきたテクノロジーを、エネルギーや航空宇宙、バイオなどの分野に転用していかなければ、日本の産業は衰退していくという危機感を持っています。その橋渡しをしていかなければならず、それをファイナンスの面からどう支えるかが課題だと考えています。
大坪私も宮藤さんと同じ意見で、日本の産業界が大きな転換点を迎えていると思います。特にエネルギーの問題は深刻です。たとえばAI時代の到来が叫ばれていますが、将来的には地球の全発電量の4割ほどがデータセンターに使われるという試算もあります。データセンター全体を超電導化することにより、エネルギー効率を100倍にするという研究も進められています。
宮藤自動運転についても、本当に社会実装を目指すのであれば、膨大な電力を消費することになります。走らせる技術だけではなく、電力を供給する技術も追い付いていかなければなりません。

大坪テクノロジーにより資源を置き換えていくことも重要です。たとえば、由紀精密の現社長である永松が発見したMgB2という超電導材料は、地球上のあらゆるところにあるマグネシウムとボロンから作ることができます。現在研究している素材以外にも、今後さらに持続可能な代替技術を開発していくことが求められると考えており、この分野こそ、ニッチな研究開発を得意とする日本の腕の見せどころです。
宮藤地政学的にも、経済圏のブロック化が進み、資源の囲い込みと自給自足が求められる時代が来ると思います。そうした社会においては、ものづくりがどれだけ循環型社会に移行できるかが大きなテーマとなり、持続可能なテクノロジーが不可欠です。SOLIZEグループとしては、こうした領域で、まだスケール化していない分野に関わっていきたいと考えています。
雇用を創出する、ものづくりを強くする、この思いは先ほど話題に挙がったインクス雷鳥ファンドの時代から変わっていません。いま一番大事にしているのは「公益性」です。SOLIZEグループは、テクノロジーとファイナンスの力で日本の産業を変革していくことに、これからもチャレンジし続けたいと考えています。
