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2018.03.12

プレスリリース

SOLIZEと芝浦工業大学が要求仕様の品質向上に関する共同研究結果を発表

製造業におけるグローバルな製品開発パートナーのSOLIZEグループ(本社:東京都千代田区、代表: 篠原敬一、以下SOLIZE)のSOLIZE Engineering株式会社(本社:神奈川県大和市)は、芝浦工業大学工学部情報工学科の中島毅教授と、要求仕様の品質向上に関する共同研究を行ってきましたが、この度、「日本語要求仕様の品質向上のための記述ルールデータセットの提案と評価」と題する研究報告を、3月9日に開催された情報処理学会第198回ソフトウェア工学研究発表会(於:芝浦工業大学豊洲キャンパス)で発表しました。

1)背景

自動車や航空宇宙産業において、開発のグローバル化が進行し、システムが複雑化·多様化するのに伴い、要求定義の重要性が高まってきています。しかし、日本における従来の擦り合わせを中心とする開発体制では、要求が曖昧なまま開発が進行し、誤った実装につながるケースが増えています。要求仕様の品質チェックを行う技術は英語圏で先行していますが、それをそのまま日本に導入することは、日本語固有の語彙体系や文章パターンの違いがあるため困難です。そのため、海外事例を参照し、日本語固有の要素を考慮して要求仕様文の評価基準および文章パターンの定義を行うことを目的に、共同研究を実施しました。

2)発表概要

要求仕様の記述に自然言語を用いると、その自由度の高さゆえに、曖昧さを導入しやすく、機械的な確認が困難であることから、要求仕様に含まれる矛盾や誤りも見逃されがちです。本研究では、日本語要求仕様の問題点を指摘し、その品質を判断するための記述ルールデータセットの提案と評価を行います。ツールを利用し、記述ルールデータセットに基づいて、語彙、構文、構文パターンの面から要求仕様文を吟味し、より良い要求仕様文を作成することが可能になります。記述ルールの開発は、INCOSEガイドのルールおよび対応するツールの評価方法・基準をベースにし、日本語特有の問題を解決するアプローチで行いました。さらに、2つの評価実験を行い、記述ルールデータセットの有効性と課題を認識することができました。

3)研究内容

SOLIZEと芝浦工業大学は、意味解析技術(Semantic Analysis Technologies)のアプリケーションを提供するThe REUSE Company社(スペイン)によって開発された要求品質向上のためのソフトウェアツール群「Requirements Quality Suite(RQS)」を技術情報のベースとして利用しました。

日本語要求仕様の品質向上のための記述ルールデータセットの開発は、英文に対するINCOSEガイドのルール、およびRQSの中心的コンポーネントで要求仕様を評価するツールRQA(Requirements Quality Analysis)の評価方法・基準をベースに行いました。

開発を進めていく中で、日本語特有の問題として以下を特定し、解決を図りました。

  • 要求文の構文パターン:
    日本語は英語と比較して構文の自由度が高いのが特徴です。JIS やREBOK要求工学知識体系 を参考に、要求仕様の表現の妥当性を確認することに加えて、ツールへの実装可能性を確認しながら、単一文における2つの構文パターンを作成しました。
  • 日本語にはない文法要素に関するルール:
    英語の要求仕様記述ルールには、日本語にない文法要素に関するものがあります。そのため、INCOSEガイドの詳細説明や例から、意味的な解釈を行うことで、要求仕様記述ルールを定義しました。たとえば、「不定詞の仕様を避ける」に対する日本語記述ルールは、「動詞の重なりを避けること」へ修正しました。
  • 日本語にしかない文法要素に関するルール:
    日本語にしかない文法事項として、漢字とひらがなの使い方、および助詞の利用があげられます。前者については、JIS規格が定めている公用文における漢字使用および仮名の記述ルールに従うこととしました。助詞の記述ルールは、IPA/SEC:ユーザのための要求定義ガイド およびREBOK要求工学知識体系から、日本語の要求仕様記述ルールとして必要と考える新たなルールセットを追加しました。

曖昧性の排除に関するルールについては、RQSをベースに、定義された用語を使用すること、明確な定量化を行うこと、免責事項(可能な/適切な/限り、等)や無制限事項(など/他/を回避/等々/etc.,)を避けることとしました。

網羅性の確認として、2つのガイド: IPA/SEC:ユーザのための要求定義ガイドおよびREBOK要求工学知識体系との対応付けを行いました。

評価実験

RQSに日本語を解析・解釈するエンジンを実装し、提案する日本語要求仕様記述ルールの一部を実装しました。要求仕様文の中に存在する曖昧さや非一貫性などの問題点を修正する際のRQAの有効性と要求仕様の品質向上の評価を行うため、例題として、「S型自動車操作制御システム」をRQAに入力し、59件の要求仕様文に存在する問題点を検出、その問題点を要求仕様記述者が修正し修正後の要求文を確認し、品質向上に寄与したかを評価しました。

さらに、実装した日本語要求仕様記述ルールを用いて、要求仕様の中に存在する問題点を正当に評価できるかを確認しました。例題として、組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)が発行する、「話題沸騰ポット(GOMA-1015型)要求仕様書第7版」 の計63件の要求仕様文を用いました。

評価結果

実施した2つの評価実験の結果、今回、開発した日本語要求仕様記述ルールに基づいて、概ね正しく要求仕様文を評価できていることが確認できました。

4)研究報告の意義

これまで技術文書の記述ルールについてはさまざまな提案がなされていますが、今回のように、技術領域に依存しない、さまざまな品質特性にまたがる文書の記述ルールの提案はほとんど存在していませんでした。さらに、そのルールを定量的な評価基準として定義した点が新たな知見と言えます。

また、本研究は、要求仕様の曖昧さを削減するための記述ルールの提案であり、このルールを用いることにより要求品質が向上し、システムズエンジニアリングプロジェクトの成功率を高めていくことが期待されます。また、製品開発プロセスにおけるレビュー工数の削減、要求仕様の曖昧さに起因する不具合の削減など、コスト削減効果も期待されます。

5)発表者

佐野町 友紀(芝浦工業大学工学部情報工学科ソフトウェア工学研究室)
中島 毅(芝浦工業大学工学部情報工学科ソフトウェア工学研究室 教授)
南 伸二(SOLIZE Engineering株式会社)
疋嶋 英理子(SOLIZE Engineering株式会社)

SOLIZEグループについて
SOLIZEグループは、自動車産業を中心にさまざまな産業において、製品設計・解析、MBD(モデルベース開発)領域でエンジニアの派遣や受託開発を行うエンジニアリングサービス、日本で最大級のキャパシティを持つ3Dプリンターによる試作を行う3Dプリンティングエンジニアリングサービス、さらに、開発や業務プロセスの変革の実行から定着までを行う変革エンジニアリングサービスなど、製品開発に関わる事業を展開しています。また、SOLIZEグループはグローバル展開を積極的に推進しており、これまでに米国、欧州、インド、中国で事業を拡大してきました。

SOLIZE Engineeringについて
約1,000 名のエンジニアを有するSOLIZE Engineeringは、自動車業界を中心に3D CAD/CAEや、近年需要が拡大しているモデルベース開発(MBD)のエンジニアリングサービスを提供しています。

Ⅰ 公用文における漢字使用および送り仮名の付け方の基準の制定
Ⅱ REBOK要求工学知識体系 第1版, 近代科学社, 2011
Ⅲ IPA/SEC編:SEC Book ユーザのための要求定義ガイド
Ⅳ 話題沸騰ポット(GOMA-1015型)要求仕様署第7版、組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)発行

本プレスリリースのPDF版はこちらPDf

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