SOLIZE株式会社

変革コンサルティング

「エナジートランジション推進」と「事業競争力強化」に向けた、
発電機の設計から製造、サービスまで一気通貫のプロセス変革

エネルギー
三菱重工業株式会社

発電機の設計から製造、サービスまで一気通貫のプロセス変革

成長エンジンであるエナジートランジションを一層加速する

三菱重工業株式会社は創業から140年にわたり、ものづくりとエンジニアリングのグローバルリーダーとして、民間航空、輸送、発電所、ガスタービン、機械、インフラから、防衛・宇宙システムに至るまで、陸・海・空そして宇宙という幅広いフィールドで、世界中の人々の生活や産業活動の基盤を支えています。同社が今、最も注力しているのはカーボンニュートラル社会実現への取り組みです。同社グループが掲げる2040年カーボンニュートラル宣言「MISSION NET ZERO」の達成に向け、エナジートランジションによる脱炭素化(供給側)と、社会インフラのスマート化による省エネ・省人化・脱炭素化(需要側)を両面で実現するために、事業変革や技術革新を推進しています(https://www.mhi.com/jp/company/aboutmhi/carbon-neutral)。

特に、同社エナジー事業の軸となるパワー事業※1においては、石炭火力発電を取り巻く市場環境の激変により新設工事の長期的な減少が見込まれる中、既存事業の生産性向上や収益力強化と同時に、成長戦略としてよりリアリティのあるトランジションの実現が求められています。そこで、同事業における主力の一角であるタービン発電機※2の設計から製造、アフターサービス業務までを対象に、生産性向上と競争力強化(エナジートランジション推進)に向けた抜本的な業務変革プロジェクトを開始しました。

設計工数70%削減、設計から製造までのリードタイム30%短縮、
高効率タービン発電機などの新需要に先回りして応えていく

同事業の発電機設計・製造部門は、お客さまからの要求情報を各種装置類の要件として具体化し、仕様・配置・取り合い情報などを整合します。設計部門で基本設計や詳細設計により必要な設計図書類を作成し、調達部門、製造部門、品証部門、パートナーとの調整をしながら製作を進めます。個別受注生産の製品特性に加え、受注量増加や、お客さまの仕様の高度化・複雑化が重なり、発電機本体および周辺機器の標準化が遅れがちでした。また、技術的な検討が複雑で多岐にわたり膨大なため、都度の検討や調整が多く、要求実現に向けた設計手法やノウハウが暗黙知になりやすく、関連部署間の連携も一部で曖昧な領域が発生せざるを得ないこともありました。その結果、主要部品間の成立性検討や要求仕様対策が後手に回ることで高難度の手戻りが増加し、熟練を中心とした属人的なすり合わせで対処するなど非効率な業務となっていました。

Fig.1 発電機の設計から製造までの変革前

そこで、同部門の設計から製造までを中心とした変革推進メンバーは、徹底した業務実態の可視化・Fact情報の可視化に立脚し、「目指せ、世界一の発電機」を掲げた本気の議論を重ねながら「単なる一過性の効率化ではなく、競争に勝ち続け、お客さま満足度を最大化するための、設計から製造までが連動した生産プロセス」を描きあげました。

中長期的な脱炭素化を見据えた変革活動のコアとして、それまでの主力であった石炭火力焚き向けの「水・水素冷却機(大型発電機)」よりも、今後のトレンドであり標準になっていくガスタービン・コンバインドサイクル向けの「水素冷却機(中型発電機)」を対象に、タービン発電機の「ベース機(基本仕様機)を徹底的に構築する」ことから戦略的に着手しました。ここで「標準機」ではなく「ベース機」と定義した理由は、お客さまに標準機を購入していただくのではなく、「お客さまの仕様に合わせてベース機からカスタマイズすること」が前提であることを変革活動の立脚点(変革メンバーへの意識づけ含む)とするためでした。

具体的な変革アプローチとして、

  1. 客観的な性能評価に基づいた設計の最適解をもとに、部門としての設計思想を固めて全発電機設計に反映
  2. ベース機をこれまで以上に設計共通化・最適化を最大限反映したラインアップとし、資材費低減案や工数低減案、開発構造採用検討への基盤として活用
  3. 再構築したベース機を主軸として、補機やオプションの標準化・ラインアップの整理(固変分離と標準化の徹底)
  4. 3D化・テンプレート化・バリエーション設計・半自動設計の組み合わせによる効率化の追求
  5. 工数・スケジュール予実管理の運用プロセス整備、見積り・実行予算・積上原価の予実GAPの見える化と対策スピードの強化

を実行の軸に、課題に対して網羅的で相乗効果が得られる対策から優先順位を決定し、実施しました。

変革活動で構築した新しい仕組み一式を、ターゲット案件を定めて段階的に実践適用を開始、現場と一体となってスモールスタート・サクセスを重ねながら試行錯誤と改善を繰り返し、実務での新しい運用を確立しました。その結果、新設実案件において「本体設計工数70%削減」および「設計から製造までのリードタイム30%短縮」を実証しただけではなく、同仕組みをほかのラインアップにも展開し、さらなる変革効果の拡大を推進しています。また、本活動で培った「新たな要求に応える技術応用力」および「効率化で創出したリソース」は、同社が目指すエナジートランジション実現※3に向けて発電機領域の進化を支える原動力となり始めています。

Fig.4 発電機の設計から製造までのプロセス変革で推進中の、ビジネス・トランスフォーメーションのイメージ

他社機も含め幅広く保全ビジネスの展開へ、
安心安全と脱炭素化を推進するサービス力を拡充

発電機のような大型のインフラ産業機械では、新設案件での競争力以上に、その後の設備運転から長期保守メンテナンス、更新、廃棄に至るまでの、電力バリューチェーン全体で一貫してお客さまを支援していくアフターサービス力が特に重要性を増しています。

同部門においても、既設機の老朽化更新や性能改善といったアフターサービス領域の需要が増加しており、特に最近では他社製既設機のメンテナンスや更新の引き合いが増加しています。そこで、変革推進メンバーは続くテーマとして、「アフターサービス領域まで一気通貫で変革活動をつなげる」ことで、さらなるお客さま満足度の向上に取り組んでいます。

アフターサービスの適切な提案には、既設機の「現状」と「満たすべき性能」を踏まえ、その設計思想や構造まで踏み込んだリバースエンジニアリング(RE)に立脚する要件定義と見積り技術が肝要です。特に他社製既設機のREは、設計思想が異なり図面も入手できないため、難易度の高いテーマです。定期検査の合間など、短期間にピンポイントでの情報取得(詳細形状や寸法、据え付け時の要件など)が必要であり、取得しきれない情報は自社技術で補完していくため、現地訪問エンジニアの高度な暗黙知となりやすい領域です。

そこで、先述の設計から製造までの変革で構築した仕組みを土台として活用し、アフターサービスのパターンや業務プロセスの整備、コアノウハウの形式知化、技術人財育成など、運用体制を強化しています。たとえば、どのような情報をもとにどのようにして設計思想を推測するのか、寸法情報の不足に対し代替寸法をどう導くのかなど、設計ノウハウの整備です。また、測定目的ごとの環境設定や方法、精度バラつきへの補正対策や、重大事故の未然防止策などの製造ノウハウの整備です。それらの技術を併せ持ち、最適な判断ができるハイブリッド人財を育成するための実践型訓練も推進しています。

この仕組みにより、自社既設機への提供価値向上はもちろん、海外を含む他社製既設機のアフターサービスも積極的に業務として取り組むようにしています。

Fig.5 自社機・他社機によらず、既設機の老朽化更新・性能改善を強化するためのRE技術確立と組織知化の推進

また、同社が全社的に推進しているインテリジェントソリューション「TOMONI® ※4」と積極的な連携を開始しています。お客さまの発電機における運転データを蓄積・モニタリングし、設備の運転傾向・負荷状況、周期性を分析。さらに、熟練運転員のノウハウや日報実績などと紐づけて設備使用状況のメカニズムを解き明かしながら、同社の発電機運用をAIで最適化したモデルとして構築しました。それによりトラブルの予兆診断・事前回避対策や、最適運転の提案・予防保全の提案など、これまで以上に高度なサービスを提供し始めています。

Fig.6 データアプローチ×熟練暗黙知の形式知化アプローチによる予兆保全・運転最適化へのAI活用イメージ

自らを常に変革し続け、エネルギーの安定供給と脱炭素の新しい未来を創り出す

設計から製造、アフターサービスまでの統合的な本変革成果は、発電機の設計製造の生産性向上のみならず、発電機設備の長寿命化や発電効率の維持向上、性能改善や老朽化更新での脱炭素化の推進など、既存事業の生産性向上や収益力強化と同時に、成長戦略としてよりリアリティのあるエナジートランジションの実現につながる同社の重要な試金石となりつつあります。

大きな時代の転換点を迎え、社会システムの在り方や人々の価値観が大きく変化していく中、「自ら課題を見つけ出すことで、新しい未来を作り出す」具体的なアクションの1つとして、本活動は同社のたゆまぬ挑戦を支えています。

エナジードメイン GTCC事業部
発電機技術部
部長
石原 篤 様
(本活動のプロジェクトオーナー)

「お客さまによりご満足いただくために、常に自らの変革に取り組んでいます。設計部門が主導した本活動は、設計から製造、アフターサービスまで、ステークホルダーが多く、特にコストやリードタイムの面で製造部門まで一体となり推進していくことがポイントであり、大変でもありました。たとえば、従来の仕組みによる既存案件が設計から製造までの工程を流れている中で並行し、新しい仕組みによる実案件がイレギュラーで流れ行く。それを段々と定常業務へと切り替えながら、設計部内や設計・製造間での意見の食い違いを合意形成へと変えていく。その中で特に重要だったのは、変革活動の目的/目標を明確にし続けることと、進捗と成果の見える化でした。明確なメッセージを発信し続け、困難な中でも確実に成果を見える化し、勇気をもって実行し続けることで、段々と設計と製造のメンバーの意識や連携が改善していったことをよく覚えています。現場は改善への想いとアイデアを持っています。それを気骨ある実行と成果の見える化でしっかりと引き出していくことが変革推進のポイントだと思っています。出発点である変革チームのメンバーへ心から感謝しつつ、今後もお客さまの要求に応える技術やサービスの開発など、QCD観点の強化やカーボンニュートラルに資する付加価値の実現など、変革を加速していきます」

エナジードメイン GTCC事業部
日立ソリューション技術部
発電機サービス技術グループ
グループ長
関谷 憲司 様
(本活動のプロジェクトリーダー)

「事業環境の変化に伴い抜本変革が必要なタイミングでした。やるならば自らが率先しようと考え、設計変革のリーダーを担うようになり、必要な方に声をかけながら推進していきました。たとえば、ベース機の構築の際は、徹底して標準化する中で、技術的な成立性はもとよりコスト面の成立性(設計工数70%減)が特に厳しい状況でした。『実現するにはどうすればよいのか』の視点で試行錯誤を繰り返す過程では、府金さんの技術的見解による図面単位の固変分離が奏功しました。組織のコスト意識は一層向上し、正味工数・イレギュラー工数の情報取得の仕方や、予実対策の精度も磨かれました。さらに大変だったのは後工程を含めての変革です。『本当に製造できるのか』に基づくので、より上流の段階から設計と製造で技術的な成立性をすり合わせていく業務プロセスを構築しつつ、変革の一体感を醸成する部分は石原部長に担っていただきました。設計・製造のトップが自分の言葉で同じメッセージを発信し続ける中で、多くの方が変革を自分ごととして協力していったという実感があります。今後、業務変革は一定周期でさらに増えていくでしょうし、弊社にはその想いやアイデアをもった方がたくさんいます。それらの方々がどんどん自発的に変革を続けられる文化、組織で支援する文化を創っていきたいと思います」

エナジードメイン GTCC事業部
発電機技術部 発電機設計グループ
主席技師
府金 圭二 様

「発電機のベース機構築というコアなテーマにおいて、設計の技術面やコスト面での課題対策や成立性に関してアドバイスが欲しい、と関谷さんから声がかかりました。最初は何となくやらされ感もあった中で、よい意味で関谷さんにお膳立てされながら、取り組みやすい仕組みや環境を用意してくれるなど、進め方もよかったと思います。『忙しいだろうし文句は聞くけどとにかくやってくれ、必要な変革なんだ』と、関谷さんからの本気のメッセージも覚えています。ベース機構築はコストの成立性(設計工数70%減)をどう実現するかが一番のポイントでした。そこで対策を見出すべく膨大な図面それぞれの単位で、どの設計検討にどのくらいの工数をかけているのかを見える化するアプローチから開始しました。そのうえでラインナップごとにどこを標準化してどこを個別検討にしていけばどのくらい工数が低減できるかを、製品の設計思想や意図まで遡りながらあるべき姿を試行錯誤していきました。このような実直な設計判断の可視化と体系化は最終的な工数70%減に向けて重要な初手となりました。設計変革というと、3D化や自動化など、手段の目的化のようなアプローチも多い中、まずは業務実態や課題構造の分析から着実に取り組むことが重要だと再認識しています」

エナジードメイン GTCC事業部
発電機技術部
発電機企画管理グループ
主席チーム統括
和気 孝美 様

「変革活動の推進を部門横断で支援する立場として企画・実行に携わってきた中で、変革メンバーのやる気をいかに引き出していけるかが常にポイントでした。設計部内と製造部内で大勢のメンバーが参画し、技術領域が多岐にわたる本活動において、業務変革における認識合わせや情報共有にかなりの工夫が必要でした。振り返ると、変革メンバーの積極的な巻き込みに向けて重要だったポイントが3つあったと思います。1つ目は、意思を持った変革リーダー(石原さん)の存在です。リーダーが変革の意義/目的/目指す姿を常に発信し続け、ぶれない目標を設定すること。2つ目は、目指せる・実現できる目標設定と実行ステップを明確にして、成果を積み上げながらチームに自信を与えつつ、そこに向かわせることです。3つ目は、それら変革活動のスケジュール・進捗・予実GAPへの対策アクションや成果の見える化です。これら3つをうまく掛け合わせながら共有できる仕組みとすることで、一人ひとりが変革を自分ごととして推進することができたのではないかと思います。本活動を通じて組織横断でのコミュニケーションも活性化してきました。これまで以上にメンバー同士がさまざまな意見を積極的に出し合いながら実行できる活動へつなげていきたいと思います」

エナジードメイン GTCC事業部
日立ソリューション技術部
発電機サービス技術グループ
奥 岳人 様

「他社機・北米向けテーマのリバースエンジニアリング(RE)案件に関わる中、関谷さんから声がかかり本活動に参画しました。アフターサービス領域は、最近は特に他社製既設機も含め需要が増加しています。そこで重要となるREでは、新設機以上に高度な技術検討やイレギュラー対応が多い状況です。他社機も扱う特性上、業務のノウハウやプロセスが熟練暗黙知となっている部分や、実績やデータの活用方法が曖昧な部分もあり、最適な技術検討やサービスを構築すべきタイミングでした。そこで関谷さんとRE技術専門の体系化・効率化チームをつくり、経験が浅い立場を最大限活かし、ゼロベースであるべき姿を試行錯誤してきました。それまでは特定の人がやらざるを得ない業務でしたが、人の経験や技術に依らず誰もが高度に実行できる仕組みを構築し、実案件で実践適用や改善を始めています。海外・他社機まで含めたアフターサービス領域の強化は、付加価値向上への新たな挑戦であり、設計・製造のトップから現場までを含め『変革が必要なんだ』という意識統一が肝要です。そのためにも、自分のような若手が現状に満足せず、率先して声を上げ、後押ししてくれる組織の力を活用しながら、これからも変革を進めていきたいと思います」

※所属部署・役職は本活動推進時のものです

  • ※1 三菱重工業株式会社・パワー事業(https://power.mhi.com/jp/about):電力システム機器の設計から製造、建設、運転開始、長期メンテナンスまで、電力バリューチェーン全体を一貫してソリューションを提供している。複合発電による高効率エネルギーを提供するガスタービン・コンバインドサイクル発電プラント(GTCC)、石炭・石油・天然ガスの高効率運用を可能とする石炭ガス化複合発電プラント(IGCC)、最新発電技術で自然のエネルギーを活用する地熱発電プラント、およびそれらを構成する機器であるガスタービン、蒸気タービン、ボイラー、環境装置(AQCS)、発電機、制御システム、燃料電池、蓄電・蓄エネルギーシステムの設計から製造、サービス、メンテナンスを実施している。
  • ※2 タービン発電機(https://power.mhi.com/jp/products/generators/):1,000台以上を世界各地に納入しており、その運転実績から、製品の信頼性に対する高い評価を得ている。現在は、空気冷却方式をはじめ、水素冷却方式、水・水素冷却方式など、さまざまな冷却方式を採用したタービン発電機を提供するとともに、短絡発電機などの特殊発電機を提供し、幅広いニーズにきめ細かく対応している。
  • ※3 石炭火力をガス焚き高効率ガスタービン(GTCC)に置き換え。天然ガス焚きガスタービンの燃焼器を交換、燃料系統の追加のみで、水素焚き/アンモニア焚きガスタービンの実現。および、アンモニア発電技術開発と水素エコシステムの構築を組み合わせた事業変革が、CO₂を「減らす」「回収する」「出さない」が、同社のエナジートランジション推進の道筋(同社Webより)
  • ※4 TOMONI(https://power.mhi.com/jp/tomoni):お客さまおよびパートナーとの強固な協働とともに、発電プラントの設計、運用・保守、および各種システムのノウハウにより脱炭素化を加速するインテリジェントソリューション。高度な制御機能、人工知能 (AI) 、機械学習と多層的なサイバーセキュリティを活用して、エネルギーシステムをよりスマートにすることで収益性を向上し、最終的には持続可能な未来に向けて自律性を高めることを目指している。(同社Webより)

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