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熟練暗黙知とAI技術の融合により開発設計のリスク評価を支援

研究開発
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)

熟練暗黙知とAI技術の融合により開発設計のリスク評価を支援

本事例の位置づけ・記載内容に関して

本事例は、NEDO (国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構) が2019年度に公募した「次世代人工知能・ロボットの中核となるインテグレート技術開発」に基づくものです。SOLIZEは、本件の目的達成に向けた関連技術の研究開発をパートナー企業や国立研究開発機関、大学、ユーザー企業とコンソーシアムを組み、推進しています。本事例には研究開発中の内容も含まれますので、活動の進度に伴い順次改訂していく想定であることをご了承ください。

[背景・課題] 自動車開発の熟練者への依存拡大、約3割が手戻りの開発現場

自動車等の量産型製造業が市場で勝ち残るには、製品ニーズの変化・多様化への即時対応を可能とする、開発スピードと柔軟な調整力を獲得することが重要です。「CASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)」と呼ばれる技術革新によってクルマの概念そのものが変わろうとする自動車産業においては、特にその傾向が顕著です。しかし、現在の開発業務は、機能横断的で複雑な設計検討が増加する一方で、各技術者の専門分野の細分化・分業化による個別最適化が進み、各技術者の経験は限定的とならざるを得ず、製品開発全体を俯瞰して見渡し、上流工程で早期に開発リスクを抽出・部門横断的に解決策を見出す熟練設計者が育ちづらい環境となっています。

開発リスクの抽出・対策検討に関し、FMEAやDRBFMなど※1の仕組み活用や、日々のたゆまぬ改善活動を推進している一方で、要求の複雑化/高度化により抑えるべき検討項目は増加の一途です。また、検討の質は設計者の経験や勘にも大きく依存するため、経験の浅い設計者の場合、品質確保に多くの工数をかけるものの、網羅的な技術情報のチェック不足により、検討が不十分であることが多い傾向にあります。

その結果、設計品質の担保は各分野の熟練技術者を集めた「デザインレビュー(以下、DR)」への依存度がますます高くなり、「DRの時間増加」「検討漏れによる手戻り増加」「開発期間の長期化」といった問題が発生しています。また、熟練者の高齢化・定年退職等により技術伝承も希薄化する中、開発業務の変革が急務となっています。

設計リスク抽出・対策検討に時間を費やすも、不具合・手戻りが開発設計工数の約3割を占めるFig.1 設計リスク抽出・対策検討に時間を費やすも、不具合・手戻りが開発設計工数の約3割を占める

[解決策] 熟練の設計リスク評価をAIで再現、課題解決を直接的支援

SOLIZEは、自動車等の量産型製造業における「開発の生産性向上」と「新たな付加価値領域へのリソースシフト」を実現するため、熟練技術者の暗黙的なノウハウを解明、AIを用いて再現し、網羅的な開発リスクの抽出・対策検討判断を支援することを目指した仕組みの開発をNEDOへ提案・採択され、本研究開発を開始しました。

熟練設計者の暗黙的なノウハウと呼ばれるものは、設計図書類そのもの以上にその設計の背景となる考え方や意図にあります。それらは、報告書等の開発実績資料※2に蓄積されることも多いため、新製品開発が既存製品をベースとして「設計変更点・変化点」を定義していくことを考えた際に、過去の情報資産を現在の開発業務の状況に合わせて「有効に引き出し」、「再利用」することは重要な対策となります。

その実現方法の一つとして、テキスト分析や質問応答(chatbot等)等の自然言語処理関連のAI技術を利用し、大量情報群からの情報の再利用や知識獲得を狙うアプローチが注目されています。一方で、それらは業務における問いと回答とがシンプルに1対1で対応しているような業務においては有効ですが、複数条件で複雑なトレードオフ判断を要す設計業務に対しては、まだ決定的な解決方法は導き出されていません。その結果、多量のデータを雑多にAIに学習・分析させたとしても有効な知見を得ることは難しく、またシンプルな全文検索の仕組みだけでは検索者の前提知識レベルに左右されるだけでなく、的外れなものまで抽出してしまう、検索したところでそもそも有効なノウハウドキュメント自体が存在しないなど、直接的な課題解決にはつながりづらいといった課題が挙げられます。

そこで本研究開発では、以下の技術開発を進めています。

①熟練の実践知識を形式知化、設計特化型知識ベースよる推論強化

熟練設計者と同等レベルに設計者を支援するためには、AIの推論エンジンを熟練同等レベルに強化する知識ベースの構築がポイントとなります。

そこでSOLIZEは、「自社の設計・解析・試作・製造の現場で培ってきた、ものづくりの技術※3」をもとに、「独自の暗黙知の形式知化アプローチ※4」を組み合わせ、熟練設計者の暗黙的な判断やその背景/意図、技術要件や検討軸、思考パターンを一つひとつ紐解きながら形式知化し、製品開発における「もの・ことの関係性」の基となる構造化された知識ベースの構築※5を進めています。また、人工知能研究における知識構造化の研究実績を多く持つ国立研究開発機関や大学とも連携しながら、必要な技術開発にも取り組んでいます。

具体的に知識ベースは、大きく以下の要素で構成される想定です。

■もの・こと関係性情報

「もの」「こと」が熟練設計者視点で設計リスク抽出の目的に必要な要素軸で構造化され、推論を補強する情報

  • 「もの」同士の関係性からは、設計対象部品からその周辺部品や上位部品といった関係性情報の類推に用いられる
  • 「もの」と「こと」の関係性からは、設計対象に関する設計リスク抽出の推論補強に用いられる

■設計リスクの因果関係性情報

設計変化点・変更点における影響範囲・リスク項目に関する「もの」「こと」の因果関係・パターン・分岐条件・閾値等が定義されており、必要な思考順序・判断基準やトレードオフ検討の支援、要因分析の推論補強に用いられる

■設計リスクの優先度情報

「もの」「こと」の組み合わせから、優先度(危険度・重要度ほか)を推論し、リスク検討の順序やトレードオフ検討の推論補強に用いられる

AIの推論エンジンを熟練同等レベルに強化する知識ベースの構築イメージFig.2 AIの推論エンジンを熟練同等レベルに強化する知識ベースの構築イメージ

②設計支援アプリケーションの開発と業務実装

①で構築した知識ベースと推論エンジンを組み合わせ、実際の検討プロセスに沿って課題解決に最適な知識を提供するための設計支援アプリケーションの開発を、自然言語処理における高度なAI技術を有するパートナーと共に進めています。

これにより、設計者からの問いに対して適切な推論を行いながら、日々、組織内に大量に蓄積される成果物・ドキュメント群から業務目的に沿った情報のみを抽出、最適なナレッジとして再構築し、根拠情報とあわせて提供します。また、DR結果の反映など、提供された情報に対するフィードバックなどを設計者から得ることにより、常に進化を続ける仕組みを目指し研究開発を進めています。

これらは本研究開発のコンソーシアムに参画いただいた大手メーカーにおける開発現場でのトライアルにより、一定の成果を実証しはじめています。

熟練観点で過去知見から情報抽出し設計品質を底上げする業務実装のイメージFig.3 熟練観点で過去知見から情報抽出し設計品質を底上げする業務実装のイメージ

日本の創造力とスピードを強化する共通基盤技術の確立へ

本研究開発の成果を通じ、以下の貢献をしていきます。

  • 01. エンジニア一人あたりが創出する付加価値向上に貢献
    設計業務の効率化・生産性向上を図り、設計者がより広範な技術検討に時間を割くことを可能とします。
  • 02. 企業間における「製品・サービス」での競争を前提とした、エンジニアの働き方の効率化における協調に貢献
    本研究開発における推論エンジンや知識ベースの汎用化技術獲得とプラットフォームの提供により、非競争領域における企業間の情報資産のシェアを促進し、ものづくり産業全体で不足するAI人材・技術の有効活用に貢献します。
  • 03. 人工知能適用分野における熟練暗黙知の有効活用の手法を確立し、日本のAI関連技術の競争力向上へ貢献
    上記2点の価値を創出した結果として、熟練技術者不足の深刻化等、世界に先駆けて高齢化が進む日本が直面している課題に対して解決策を見出すことにより、将来訪れるであろう世界的な高齢化の問題に対して日本が世界をリードする立場になることへの価値へ寄与していきます。

SOLIZEは日本のものづくりの未来に向け、各社が保有する技術知見を掛け合わせた共通プラットフォームづくりを通じて、ものづくりの英知を最大活用できる業務環境の構築を目指しています。各社が協調しながら、自社の強みを活かし得意分野に注力することで、日本のものづくり全体の創造生産性の向上に寄与していきます。

※1:設計の「変更点」や、製品が使われる環境や仕向地などの「変化点」に着目することで、品質トラブルの発生防止を目的とした自動車業界の開発現場には広く浸透している品質不具合未然防止手法、業界や企業ごとに名称は異なるとしても製造業界においては同様の検討手法を用いる場合が多い。

※2:技術関連報告/不具合対策報告/試験結果報告ほか、最終的な設計図書類に行き着く過程において発生するさまざまな試行錯誤や試験・検証を通して得られた概念的・自然言語的な情報。

※3:1990年代より、日本の量産産業における3Dプリンターの先駆的活用を推進、自社工場において、設計・解析・試作・金型製造までを3Dデータ一気通貫で実現。携帯電話の筐体金型の設計・製造期間を従来の1/24に短縮するなど、先進技術を駆使し多品種少量生産に貢献。昨今では、MBDやAI技術も組み合わせることで、自動車産業ほか量産産業のデジタルトランスフォーメーションを支援。

※4:知識・経験・意志を変革する「ウィズダム・エンジニアリング」。通常のような「行動」「動作」の可視化は行わず、「判断」を可視化。状況をどのように「知覚」して、どのように「解釈」し、どのような方法が適しているかを「判断する」という暗黙的に行われている知恵を、データ分析と対話を組み合わせた方法で形式知へと変換する。

※5:熟練の観点を再現する「文書評価技術」については、SOLIZE独自の最適な自然言語処理アルゴリズムを開発し、特許出願中。

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